ラテン語

Date : 2005-03-10
Author : Defolos

CONTENTS

(1.) 歴史、発音とアクセント
- 文字
- 発音
- 短母音と長母音
- アクセント
(2.) ラテン語の名詞
- ラテン語の語順
- 名詞の特性(性・数・格):性
- 名詞の特性(性・数・格):数
- 名詞の特性(性・数・格):格
(3.) 名詞の5つの変化パターン
(4.) ラテン語の人称名詞
- 人称名詞
- 属格の扱い方
(5.) ラテン語の形容詞
- 性・数・格の一致
- 形容詞の名詞としての用い方
(6.) ラテン語の数詞
- 数字の基本
- 一覧

歴史、発音とアクセント

 ラテン語は、インド・ヨーロッパ語族のイタリック語派の言語の一つで、ラテン・ファリスク語群です。 もともと、イタリアの南部のラティウム(Latium、ローマを中心とした地域。今はLazioと呼ばれるイタリアの州のひとつ)においてラテン人により用いられていた言語でしたが、ローマ帝国の公用語となったことにより、その広大な版図に伝播しました。ギリシア語から、多くの語彙を受け入れ、学問・思想など、高度の表現が可能となりました。東ローマ帝国においては、やがてギリシア語が優勢となりましたが、今日のヨーロッパに相当する地域においては、ローマ帝国滅亡後もローマ教会の公用語となり、事実上、唯一の書きことばとしての地位を長らく保ちました。現在でもバチカン市国の公用語はラテン語です。

 このため中世においては公式の、または学術関係の書物の多くはラテン語で記されていました。故に、現在でも学術関係の用語の端々にラテン語が残っています。例えば、生物の種名の命名はラテン語を使用する規則になっています。また、法学においても、多くのローマ法の法格言や法用語が現在でもラテン語で残っています。 なお19世紀までヨーロッパの各国の大学では学位論文はラテン語で書くことに定められていました。

 今日のロマンス諸語(東イタリア語・ルーマニア語、西スペイン語・フランス語など)は、ラテン語から派生した言語です。また、ドイツ語・オランダ語・英語などのゲルマン諸語にも文法や語彙の面で多大な影響を与えました。

● 文字

 ラテン語に使われる文字は、英語のアルファベットから「J」「U」「W」を除いた23文字(大文字のみ)です。

A:アー B:ベー C:ケー D:デー E:エー F:エフ G:ゲー H:ハー I:イー
K:カー L:エル M:エム N:エヌ O:オー P:ペー Q:クー R:エル S:エス
T:テー V:ウー X:イクス Y:ユー Z:ゼータ

● 発音

 発音の多くはローマ字読みです。

 ラテン語の母音、子音は必ず読む、英語でclimbのbや、knifeのkのような発音しない文字は原則的にありません。

 同じ子音が重複する場合、その子音を別々に読むか、促音にして読みます。

● 短母音と長母音

 ラテン語には日本語と同じように短母音と長母音が区別されます。Ciceroのoは長母音なので「キケロー」と発音します。pater は(パテル:父)、mater は(マーテル:母)となります。panis(パーニス:パン)、femina (フェーミナ:女性)、res(レース:競争)、vita(ウィータ:人生)、caritas(カーリタース:愛)、tu(トゥー:あなたは)、ludus(ルードゥス:遊び)、imperator(インペラートル:最高指揮官)、nasus (ナースス:鼻)、non(ノーン:〜でない)、fatum(ファートゥム:運命)。短母音、長母音の区別はラテン語の辞書に記載されています。固有名詞の母音の短長は原則として無視するという方針になりつつあるようです。

● アクセント

 2音節以上からなる単語の場合、単語の後ろから数えて2つ目、あるいは3つ目の音節がアクセントになります。

1.) 1音節の場合

 例)pes(ペース:足)、os(オース:口)は、その音節にアクセントがあり、それ以外発音のしようがありません。音節の数とは単語に含まれている母音、複母音の数のことです。

2.) 2音節の場合

 語の最後から数えて2番目の音節にアクセントがあります。Caesarのように2音節の語の場合、aeの部分にアクセントがあります(aeは、後ろから数えて2番目の音節です)。vita(ウィータ:人生)も2音節の語なので、同様にiの箇所にアクセントがあります。

3.) 3音節の場合

 例)moneo(モネオー:忠告する)後ろから数えて2番目の音節(mo-ne-oだとeの音節)に含まれる母音の長短で判断します。それが長母音であれば2番目の音節にアクセントがつき、短母音であれば3番目の音節にアクセントがつきます。moneoのeは短母音なので、後ろから3番目の音節(すなわちmoのo)にアクセントがつきます。従って「[モ]ネオー」となります。

 例)Romani(ローマーニー:ローマ人)

 Ro-ma-niの後ろから数えて2番目の音節maは長母音ですので、ここにアクセントがつきます。従って「ロー[マー]ニー」となります。

4.) 3音節以上の場合

 3音節の場合と同じで、後ろから数えて2番目の音節の母音の長短で判断します。


ラテン語の名詞

 ラテン語は単語の形を変化させることで文法を操作する言語(屈折語)です。それ故に単語の形が文法の意味を決めます。

例)Ab lacrima lacrimam excieris.
  (ab=〜によって,lacrima=涙,excieo=喚起する)

 あなたは涙によって涙を喚起されている(あなたはもらい泣きしている)。という意味になります lacrima(ラクリマ:涙)という単語が変化して、lacrima(ラクリマー:涙によって)、lacrimam(ラクリマム:涙を)と用いられることで、日本語の助詞まで含んだ意味になります。変化しない部分(語幹)に変化する部分(語尾)がくっつくことでさまざまな文法的意味を表現してるというわけです。

 上の文をよく見てください。この文には主語(you)が入っていないように見えるかもしれません。しかし、動詞であるexcierisという単語の中に「あなたは」という意味も内包しているのです。excieo(エクスキエオー:私は喚起する)という単語が変化して、excies(エクスキエース:あなたが喚起する)となり、さらexcieris(エクスキエリース:あなたが喚起される)とまで変化してしまいます。

●ラテン語の語順

 英語はこの通りにしか記述できません。しかし、ラテン語は屈折語としての特徴を色濃く残している故に、語順に制限がなく、どう書いても問題なく訳せます。

 Caesarは主格なので「カエサルは」としか訳せません。Romamは対格なので「ローマに」としか訳せません。itはeoの三人称現在形で「彼が行く」としか訳せません。以上の理由からどのように並べても「カエサルはローマに行く」としか訳せないのです。

 ラテン語のこの特徴は文頭に強意をおいたり、表現のマンネリを防いだりと豊かな表現のために役立ちます。文章の構造が複雑になればなるほど、単語自体に意味があることが有効になってきます。

●名詞の特性(性・数・格)について:性

 ラテン語の名詞には三つの文法的意味(性・数・格)があります。数は英語でもおなじみです、つまり単数か複数かです。格は主語になったり、呼びかけたり、所属されたりといった文法的用法を示す形です。性はその単語の持つ性別を表しています。ヨーロッパの言語の名詞には男性か女性か中性かを持つものが多く、ラテン語も例外ではありません。

 一見不規則に性別が振られているように思えますが、実は名詞の変化型によって判別可能です。名詞は語幹の幹末の形によって5つの変化型を持ちます。型ごとに例外を除き、男性名詞か女性名詞か中性名詞か決まっています。その上、型は語尾が決まっていて、格/数によって決まった変化をします。

●名詞の特性(性・数・格):格

 英語で「アントニウスはクレオパトラを愛している」と表現する場合、次のように語順によって主語や目的語、補語であることを表します。

Antonius loves Cleopatora.

 ラテン語では次のようになります。

Antonius amat Cleopatram.

 英語と変わりないように思えますが、語順は問わないため、次のように表現することも可能です。

 これを可能にしているのが語尾の格による変化です。格はこれまでに紹介してきた通り、名詞の文法的用法を示すもので、6種類あります。

1.) 主格

 文の主語『〜は』あるいは補語『〜である』になる形です。

2.) 属格

 所属や所有(英語のof)を表します。『〜の』と訳すことが多い形です。

3.) 与格

 基本は目的語を作ります。英語のforに近い用法です。間接目的『〜に』、利害『〜のために』 関与『〜にとって』

4.) 対格

 これも目的語を作るのが基本の用い方です。前置詞と共に用いることが多い格です。直接目的『〜を』

5.) 奪格

 非常に広範囲に用いられます。対格と並んで前置詞とペアになります。英語のwithのように『〜によって』、inやon『〜において』、for『〜から』といった意味を持ちます。

6.) 呼格

 『〜よ』と呼びかけるために用います。一部の例外を除き、主格と同じ形なので普通は形を覚えなくてもよいです。


名詞の5つの変化パターン

 ラテン語の名詞には5つの変化パターンがあります。次にそれらの変化パターンの特徴を記載します。

● 第一変化名詞 (a幹)

 最も基本的な変化をします。変化形にばらつきが少なく、覚えやすいです。単数主格の語尾は"-a"で統一されています。第一変化名詞は例外を除き、すべて「女性名詞」です。

gra_tia(グラーティア:感謝)の活用 
+-----------------------------------------------+
|  主格  |grati-a 感謝は  |grati-ae 感謝たちは  |
|        |グラーティア    |グラーティアエ       |
+-----------------------------------------------+
|  属格  |grati-ae 感謝の |grati-arum 感謝たちの|
|        |グラーティアエ  |グラーティアールム   |
+-----------------------------------------------+
|  与格  |grati-ae 感謝に |grati-is 感謝たちに  |
|        |グラーティアエ  |グラーティース       |
+-----------------------------------------------+
|  対格  |grati-am 感謝を |grati-as 感謝たちを  |
|        |グラーティアム  |グラーティアース     |
+-----------------------------------------------+
|  奪格  |grati-a 感謝から|grati-is 感謝たちから|
|        |グラーティア    |グラーティース       |
+-----------------------------------------------+
|  呼格  |grati-a 感謝よ  |grati-ae 感謝たちよ  |
|        |グラーティア    |グラーティアエ       |
+-----------------------------------------------+

 第一変化名詞でありながら男性名詞である単語の例を列挙します。職業や人名を表すものが多いようです。

● 第二変化名詞 (o幹)

 3種類の語尾が含まれます。この3種類は、第二変化名詞の中に内包される変化のブレのようなものです。 それぞれ単数主格の語尾が"-us","-er","-um"の単語が第二変化名詞に当たります。"-us","-er"が語尾の単語は例外を除き「男性名詞」です。"-um"の語尾の単語はすべて「中性名詞」です。

 "-us"型は単数主格と単数呼格の形が違っている点に注意してください。かの有名な「ブルータス、お前もか!」はEt tu Brutus!ではなく、Et tu Brute!になります。et:〜のみならず(接続詞)、tu:あなたは(代名詞二人称単数主格)

"-us"型 dominus(ドミヌス:主人)の活用 
+-----------------------------------------------+
|  主格  |domin-us 主人は |domin-i 主人たちは   |
|        |ドミヌス        |ドミニー             |
+-----------------------------------------------+
|  属格  |domin-i 主人の  |domin-orum 主人たちの|
|        |ドミニー        |ドミノールム         |
+-----------------------------------------------+
|  与格  |domin-o 主人に  |domin-is 主人たちに  |
|        |ドミノー        |ドミニース           |
+-----------------------------------------------+
|  対格  |domin-um 主人を |domin-os 主人たちを  |
|        |ドミヌム        |ドミノース           |
+-----------------------------------------------+
|  奪格  |domin-o 主人から|domin-is 主人たちから|
|        |ドミノー        |ドミニース           |
+-----------------------------------------------+
|  呼格  |domin-e 主人よ  |domin-i 主人たちよ   |
|        |ドミネ          |ドミニー             |
+-----------------------------------------------+

 "-us"型第二変化名詞でありながら女性名詞である単語の例を列挙します。樹木の名前や一部の地名に用いられることが多いようです。

"-us"型第二変化名詞でありながら中性名詞である単語の例を列挙します。

 "-er"型には発音の関係上、単数主格以外のときにerのeが脱落するかしないかの2通りがあります。

"-er"型 puer(プエル:少年)の活用 
+---------------------------------------------+
|  主格  |puer- 少年は   |puer-i 少年たちは   |
|        |プエル         |プエリー            |
+---------------------------------------------+
| 属格 |puer-i 少年の  |puer-orum 少年たちの|
|        |プエリー       |プエロールム        |
+---------------------------------------------+
|  与格  |puer-o 少年に  |puer-is 少年たちに  |
|        |プエロー       |プエリース          |
+---------------------------------------------+
|  対格  |puer-um 少年を |puer-os 少年たちを  |
|        |プエルム    |プエロース          |
+---------------------------------------------+
|  奪格  |puer-o 少年から|puer-is 少年たちから|
|        |プエロー       |プエリース          |
+---------------------------------------------+
|  呼格  |puer- 少年よ   |puer-i 少年たちよ   |
|        |プエル         |プエリー            |
+---------------------------------------------+
"-er"型 magister(マギステル:教師)の活用 
+---------------------------------------------------+
|  主格  |magister- 教師は  |magistr-i 教師たちは   |
|        |マギステル        |マギストリー           |
+---------------------------------------------------+
|  属格  |magistr-i 教師の  |magistr-orum 教師たちの|
|        |マギストリー      |マギストロールム       |
+---------------------------------------------------+
|  与格  |magistr-o 教師に  |magistr-is 教師たちに  |
|        |マギストロー      |マギストリース         |
+---------------------------------------------------+
|  対格  |magistr-um 教師を |magistr-os 教師たちを  |
|        |マギストルム      |マギストロース         |
+---------------------------------------------------+
|  奪格  |magistr-o 教師から|magistr-is 教師たちから|
|        |マギストロー      |マギストリー           |
+---------------------------------------------------+
|  呼格  |magister- 教師よ  |magistr-i 教師たちよ   |
|        |マギステル        |マギストリー           |
+---------------------------------------------------+
"-um"型 remedium(レメディウム:薬)の活用 
+---------------------------------------------+
|  主格  |remedi-um 薬は |remedi-a 薬たちは   |
|        |レメディウム   |レメディア          |
+---------------------------------------------+
|  属格  |remedi-i 薬の  |remedi-orum 薬たちの|
|        |レメディー     |レメディオールム    |
+---------------------------------------------+
|  与格  |remedi-o 薬に  |remedi-is 薬たちに  |
|        |レメディオー   |レメディース        |
+---------------------------------------------+
|  対格  |remedi-um 薬を |remedi-a 薬たちを   |
|        |レメディオルム |レメディア          |
+---------------------------------------------+
|  奪格  |remedi-o 薬から|remedi-is 薬たちから|
|        |レメディオー   |レメディース        |
+---------------------------------------------+
|  呼格  |remedi-um 薬よ |remedi-a 薬たちよ   |
|        |レメディウム   |レメディア          |
+---------------------------------------------+

● 第三変化名詞 (子音幹とi幹)

 単数主格について、さまざまの語尾がみられます。-x,-bs,-tudo,-oなど様々です。1、2、4、5変化名詞以外の全ての名詞だと思ってもよいです。また、単数主格から他の形に変化したときに大きく形が変わってしまうので注意してください。性の点でも、第一変化名詞は女性名詞、第二変化名詞は男性名詞(語尾が-us)か中性名詞(語尾が-um)等の特徴がありましたが、第三変化名詞は全ての性がまんべんなく現れます。

● 第四変化名詞 (u幹)

 第二変化名詞の語尾"-us"を取ります。第四変化の名詞はごく少数の女性、中性名詞を除けば全て男性名詞です。passus(歩み)、manus(手)、cornu(角)、fructus(果実)

fructus(フルークトゥス:果実)の活用 
+-------------------------------------------------+
|  主格  |fruct-us 果実は |fruct-us 果実たちは    |
|        |フルークトゥス  |フルークトゥース       |
+-------------------------------------------------+
|  属格  |fruct-us 果実の |fruct-uum 果実たちの   |
|        |フルークトゥース|フルークトゥウム       |
+-------------------------------------------------+
|  与格  |fruct-ui 果実に |fruct-ibus 果実たちに  |
|        |フルークトゥイ  |フルークティブス       |
+-------------------------------------------------+
|  対格  |fruct-um 果実を |fruct-us 果実たちを    |
|        |フルークトゥム  |フルークトゥース       |
+-------------------------------------------------+
|  奪格  |fruct-u 果実から|fruct-ibus 果実たちから|
|        |フルークトゥー  |フルークティブス       |
+-------------------------------------------------+
|  呼格  |fruct-us 果実よ |fruct-us 果実たちよ    |
|        |フルークトゥス  |フルークトゥース       |
+-------------------------------------------------+

● 第五変化名詞 (e幹)

 第三変化名詞の語尾"-es"を取ります。ごく少数の男性名詞を除き、すべて女性名詞です。spes(希望)、res(もの、こと)、dies(日、昼間)

dies(ディエース:日)の活用 
+--------------------------------------+
|  主格  |di-es 日は  |di-es 日々は    |
|        |ディエース  |ディエース      |
+--------------------------------------+
|  属格  |di-ei 日の  |di-erum 日々の  |
|        |ディエーイー|ディエルム      |
+--------------------------------------+
|  与格  |di-ei 日に  |di-ebus 日々に  |
|        |ディエーイー|ディエーブス    |
+--------------------------------------+
|  対格  |di-em 日を  |di-es 日々を    |
|        |ディエム    |ディエース      |
+--------------------------------------+
|  奪格  |di-e 日から |di-ebus 日々から|
|        |ディエー    |ディエーブス    |
+--------------------------------------+
|  呼格  |di-es 日よ  |di-es 日々よ    |
|        |ディエース  |ディエース      |
+--------------------------------------+

ラテン語の人称名詞

● 人称名詞

 人称名詞とは「私」や「彼」を指す語です。英語で言えば"me","he","her"などです。ラテン語名詞では格や数の違いを表すのに活用を用いてきましたが、人称名詞も例外ではありません。ただ、人称名詞はラテン語に限らず英語やドイツ語などでもほとんど活用形が違いますので、英語とそこまで変わりのない部分かもしれません。

人称名詞の活用 
+-------------------------+-----------------------------+
|        |   単数         |            複数             |
|        |________________|_____________________________|
|        |一人称 |二人称  |一人称        |二人称        |
+-------------------------|-----------------------------+
|  主格  |ego   |tu      |nos           |vos           |
|        |エゴー |トゥー  |ノース        |ウォース      |
+-------------------------|-----------------------------+
|  属格  |mei    |tui     |nostri/nostrum|vestri/vestrum|
|        |メイー |トゥイー|ノストリー    |ウェストリー  |
+-------------------------|-----------------------------+
|  与格  |mihi/mi|tibi    |nobis         |vobis         |
|        |ミヒ   |ティビ  |ノービース    |ウォービース  |
+-------------------------|-----------------------------+
|  対格  |me     |te      |nos           |vos           |
|        |メー   |テー    |ノース        |ウォース      |
+-------------------------|-----------------------------+
|  奪格  |me     |te      |bobis         |vobis         |
|        |メー   |テー    |ノービース    |ウォービース  |
+-------------------------+-----------------------------+

 三人称には男性・女性・中性があるので別の表に記載しました。

+-----------------------------------+--------------------------+
|        |   単数                   |            複数          |
| 三人称 |__________________________|__________________________|
|        |  男性  |  女性  |  中性  |  男性  |  女性  | 中性   |
+-----------------------------------|--------------------------+
|  主格  |is      |ea      |id    |ii      |eae    |ea      |
|        |イス    |エア   |イド   |イー    |エアエ  |エア    |
+-----------------------------------|--------------------------+
|  属格  |eius    |eius   |eius    |eorum  |earum  |eorum   |
|        |エイウス|エイウス|エイウス|エオルム|エアルム|エオルム|
+-----------------------------------|--------------------------+
|  与格  |ei      |ei      |ei    |iis   |iis   |iis     |
|        |エイ    |エイ    |エイ   |イース  |イース  |イース  |
+-----------------------------------|--------------------------+
|  対格  |eum   |eam     |id      |eos   |eas   |ea      |
|        |エウム |エアム  |イド    |エオス |エアス  |エア    |
+-----------------------------------|--------------------------+
|  奪格  |eo   |ea      |eo      |iis   |iis     |iis     |
|        |エオー |アエ   |エオ   |イース |イース  |イース  |
+-----------------------------------+--------------------------+

 主格のego,tu,nos,vosは、動詞の形で主語が特定できるために、滅多に見られません。例として「私はあなたを愛する」という語をラテン語で書くと次のようになります。

Ego amo te.

 上記のようになりますが、amoにはすでに「私は愛する」という意味が含まれているので、"Amo te."のように一人称主格は省略しても意味が通じます。ラテン語は簡潔な表現を好むために、このようになくても意味の通じる語を省く習慣があります。

● 属格の扱い方

 ラテン語の属格は英語のmy(単数一人称主格)のようにそのままで用いることができません。ラテン語では形容詞は性・数・格を一致させる必要があり、「〜の」というのは名詞に係るため形容詞のように扱います。例えば次のようになります。(上は英語で、下はラテン語で書いてあります)

» 私の友達
My friend.
meus amicus

amicus(友達:男性・単数・主格)と同格にするために、meiをmeusに変化させます。

» あなたのハトたち
Your pigeons.
Tuae columbae.

columbae(ハト:女性・複数・主格)と同格にするために、tuiをtuaeに変化させます。

» 私たちの教師]
Our techer.
Noster magister.

magister(教師:男性・単数・主格)と同格にするために、nostriをnosterに変化させます。

所有形容詞の活用(一人称単数の例)
(ほとんど第一・第二変化形容詞の活用表と同じです)
+-----------------------------+--------------------------+
|        |         単数      |            複数          |
|  mei   |____________________|__________________________|
|        | 男性 | 女性 | 中性 |  男性  |  女性  |  中性  |
+-----------------------------|--------------------------+
|  主格  | me-us| me-a | me-um| me-i   | me-ae  | me-a   |
+-----------------------------|--------------------------+
|  属格  | me-i | me-ae| me-i | me-orum| me-arum| me-orum|
+-----------------------------|--------------------------+
|  与格  | me-o | me-ae| me-o | me-is  | me-is  | me-is  |  
+-----------------------------|--------------------------+
|  対格  | me-um| me-am| me-um| me-os  | me-as  | me-a   |
+-----------------------------|--------------------------+
|  奪格  | me-o | me-a | me-o | me-is  | me-is  | me-is  |
+-----------------------------|--------------------------+
|  呼格  | m-i  | me-a | me-um|        |        |        |
+-----------------------------+--------------------------+

ラテン語の形容詞

 形容詞は名詞、主語を修飾したり、名詞になる語のことです。例えば「大きな家」という語があったとして、このうち家は名詞です。そして、「大きな」というのが形容詞に当たります。掛かる語がどんな状態なのかを表すような語です。
 ラテン語形容詞では、そのまま名詞として用いられることが少なくありません。形容詞と名詞の語順は、もともとラテン語には語順がないので自由に並べてよいのですが[名詞]←[形容詞]または[形容詞]→[名詞]と用いることが多いようです。

 ラテン語の形容詞は名詞と同じように活用させる品詞です。活用パターンは第一・第二変化形容詞と第三変化形容詞の二つがあります。

● 性・数・格の一致

 ラテン語の形容詞は、修飾したい名詞や代名詞の性・数・格と形を統一する必要がります。

puella,ae: 少女(第一変化女性名詞)
amicus,i: 友人(第二変化男性名詞)
theatrum,i: 劇場(第二変化中性名詞)

 名詞で出てきた性という要素の存在意義はここにあるようです。また、第一変化でも男性名詞であった場合、語尾を男性名詞に対応させ、-usにします。

● 第一変化・第二変化形容詞の活用表

bonus(ボヌス:善良な)の活用 
+-----------------------------+
|  単数  |男性 |女性 |中性 |
+-----------------------------+
|  主格  |bon-us|bon-a |bon-um|
|        |ボヌス|ボナ  |ボヌム|
+-----------------------------+
|  属格  |bon-i |bon-ae|bon-i |
|        |ボニー|ボナエ|ボニー|
+-----------------------------+
|  与格  |bon-o |bon-ae|bon-o |
|        |ボノー|ボナエ|ボノー|
+-----------------------------+
|  対格  |bon-um|bon-am|bon-um|
|        |ボヌム|ボナム|ボヌム|
+-----------------------------+
|  奪格  |bon-o |bon-a |bon-o |
|        |ボノー|ボナー|ボノー|
+-----------------------------+
|  呼格  |bon-e |      |      |
|        |ボネ  |      |      |
+-----------------------------+
+-----------------------------------------+
|  複数  |男性      |女性      |中性      |
+-----------------------------------------+
|主格呼格|bon-i     |bon-ae    |bon-a     |
|        |ボニー    |ボナエ    |ボナ      |
+-----------------------------------------+
|  属格  |bon-orum  |bon-arum  |bon-orum  |
|        |ボノールム|ボナールム|ボノールム|
+-----------------------------------------+
|  与格  |bon-is    |bon-is    |bon-is    |
|        |ボニース  |ボニース  |ボニース  |
+-----------------------------------------+
|  対格  |bon-os    |bon-as    |bon-a     |
|        |ボノース  |ボナース  |ボナ      |
+-----------------------------------------+
|  奪格  |bon-is    |bon-is    |bon-is    |
|        |ボニース  |ボニース  |ボニース  |
+-----------------------------------------+

● 特別な第一・第二変化形容詞

 第二変化男性名詞には、-us型のほかに-er型も存在しています。(puer、magisterなど)それと同じように、-er型で変化する形容詞も存在します。しかし、eが落ちるか落ちないかがあるだけで、変化のパターンに違いはありません。

 また、名詞と同じようにerのeが落ちたり落ちなかったりもします。

equus,i_,m.:馬
niger,gra,grum:黒い
rosa,ae,f.:バラ
li_lium,i_,n.:百合

liber (リーベル:自由な) eが落ちないタイプ 
+-------------------------------------------+
|  単数  |  男性    |    女性    |  中性    |
+-------------------------------------------+
|主格呼格|liber-    |liber-a     |liber-um  |
|        |リーベル  |リーベラ    |リーベルム|
+-------------------------------------------+
|  属格  |liber-i   |liber-ae    |liber-i   |
|        |リーベリー|リーベーラエ|リーベリー|
+-------------------------------------------+
|  与格  |liber-o   |liber-ae    |liber-o   |
|        |リーベロー|リーベラエ  |リーベロー|
+-------------------------------------------+
|  対格  |liber-um  |liber-am    |liber-um  |
|        |リーベルム|リーベラム  |リーベルム|
+-------------------------------------------+
|  奪格  |liber-o   |liber-a     |liber-o   |
|        |リーベロー|リーベラー  |リーベロー|
+-------------------------------------------+
+-----------------------------------------------------+
|  複数  |    男性      |    女性      |  中性        |
+-----------------------------------------------------+
|主格呼格|liber-i       |liber-ae      |libeer-a      |
|        |リーベリー    |リーベラエ    |リーベラ      |
+-----------------------------------------------------+
|  属格  |liber-orum    |liber-arum    |liber-orum    |
|        |リーベロールム|リーベラールム|リーベロールム|
+-----------------------------------------------------+
|  与格  |liber-is      |liber-is      |liber-is      |
|        |リーベリース  |リーベリース  |リーベリース  |
+-----------------------------------------------------+
|  対格  |liber-os      |liber-as      |liber-a       |
|        |リーベロース  |リーベラース  |リーベラ      |
+-----------------------------------------------------+
|  奪格  |liber-is      |liber-is      |liber-is      |
|        |リーベリース  |リーベラー    |リーベリース  |
+-----------------------------------------------------+
niger (ニゲル:黒い) eが落ちるタイプ 
+-----------------------------------+
|  単数  |  男性  |  女性  |  中性  |
+-----------------------------------+       
|主格呼格|niger-  |nigr-a  |nigr-um |
|        |ニゲル  |二グラ  |ニグルム|
+-----------------------------------+
|  属格  |nigr-i  |nigr-ae |nigr-i  |
|        |二グリー|ニグラエ|ニグリー|
+-----------------------------------+
|  与格  |nigr-o  |nigr-ae |nigr-o  |
|        |二グリー|ニグラエ|ニグリー|
+-----------------------------------+
|  対格  |nigr-um |nigr-am |nigr-um |
|        |二グルム|二グラム|ニグルム|
+-----------------------------------+
|  奪格  |nigr-o  |lnigr-a |nigr-o  |
|        |二グロー|ニグラー|ニグロー|
+-----------------------------------+
+-----------------------------------------------+
|  複数  |    男性    |    女性    |    中性    |
+-----------------------------------------------+
|主格呼格|nigr-i      |nigr-ae     |nigr-a      |
|        |ニグリー    |ニグラエ    |ニグラ      |
+-----------------------------------------------+
|  属格  |nigr-orum   |nigr-arum   |nigr-orum   |
|        |ニグロールム|ニグラールム|ニグロールム|
+-----------------------------------------------+
|  与格  |nigr-is     |nigr-is     |nigr-is     |
|        |ニグリース  |ニグリース  |ニグリース  |
+-----------------------------------------------+
|  対格  |nigr-os     |nigr-as     |nigr-a      |
|        |ニグロース  |二グラース  |ニグラ      |
+-----------------------------------------------+
|  奪格  |nigr-is     |nigr-is     |nigr-is     |
|        |ニグリース  |ニグリース  |ニグリース  |
+-----------------------------------------------+

[注意点]

 上の例で挙げたliber(自由な)という単語は、形容詞として用いると「自由な」という意味になりますが、名詞として用いると「本」という意味になります。

● 形容詞の名詞としての用い方

[形容詞の三大用法]

 3つ目の「名詞となる」場合についての説明を行いたいと思います。英語の「冠詞+形容詞」の用法にあたりますが、ラテン語には冠詞がないため、文章中の係る名詞、代名詞があるかないかで判断する必要があります。

 名詞として用いられた場合、男性形なら「〜の男」あるいは「〜の人」となり、女性形なら「〜の女」、中性形なら「〜のこと」あるいは「〜のもの」となります。

 名詞でも同じですが、活用の際にある格と違う格で同じ形になることがあります。形容詞では、性別を超えて活用するため、重複がいっそう発生しやすくなります。しかし、形容詞として用いる場合は性・数・格の一致があるため、さほど問題でもないです。名詞として用いる場合、活用が重複している単語については文脈から判断するしかありません。

例)bonis とあった場合

という6通りの中から判断しなくてはなりません。


ラテン語の数詞

 1,2,3は性・数・格変化(ただし,1は単数のみ,2と3は複数のみ)します。

●「1」の格変化(以下により「代名詞型」変化であることがわかります)(単数のみ)

+----+--------+--------+--------+
|    |男性    |女性    |中性    |
+----+--------+--------+--------+
|主格| u_nus  | u_na   | u_num  |
+----+--------+--------+--------+
|呼格|        |        |        |
+----+--------+--------+--------+
|属格| u_ni_us| u_ni_us| u_ni_us|
+----+--------+--------+--------+
|与格| u_ni_  | u_ni_  | u_ni_  |
+----+--------+--------+--------+
|対格| u_num  | u_nam  | u_num  |
+----+--------+--------+--------+
|奪格| u_no_  | u_na_  | u_no_  |
+----+--------+--------+--------+

●「2」の格変化(複数のみ)

+----+--------+--------+--------+
|    |男性    |女性    |中性    |
+----+--------+--------+--------+
|主格| duo    | duae   | duo    |
+----+--------+--------+--------+
|呼格|        |        |        |
+----+--------+--------+--------+
|属格| duo_rum| dua_rum| duo_rum|
+----+--------+--------+--------+
|与格| duo_bus| dua_bus| duo_bus|
+----+--------+--------+--------+
|対格| duos   | dua_s  | duo    |
+----+--------+--------+--------+
|奪格| duo_bus| dua_bus| duo_bus|
+----+--------+--------+--------+

●「3」の変化:男性・女性形(同形)・中性形

+----+----------+-------+
|    |男性・女性|中性   |
+----+----------+-------+
|主格| tre_s    | tria  |
+----+----------+-------+
|呼格|          |       |
+----+----------+-------+
|属格| trium|   | trium | 
+----+----------+-------+
|与格| tribus   | tribus|
+----+----------+-------+
|対格| tre_s    | tria  |
+----+----------+-------+
|奪格| tribus   | tribus|
+----+----------+-------+

 後は,例えば21は主格がunus et viginti(または,viginti unus)ですが、この下一桁が格変化します。このように、下一桁に1、2、3が来た場合にそこが変化するのですが、あとは199までは基本的に不変化です。

●数字の基本

+----+----+----+----+----+----+----+----+----+----+
| 1  | 2  | 3  | 4  | 5  | 6  | 7  | 8  | 9  | 10 |
+----+----+----+----+----+----+----+----+----+----+
| I  | II |III | IV | V  | VI |VII |VIII| IX | X  |
+----+----+----+----+----+----+----+----+----+----+

 1と5の倍数の時に新しい記号を使い、3つ目までは足していきます、4つ目は5つ目から1引いた数として表現します。足す時は右側、引く時は左側に並べます。

 気を付けなければいけないのは、百の位の100はcentumで不変化ですが、200-900 は性・格変化するという点です。例えば200はducent-i, -ae,-aとなりますが、第1・第2変化形容詞の複数の変化をします。

 更にもう一つ、1000はmilleで不変化ですが、2000はduo miliaとなり、2の所を3-9に変えると、3000-9000が表せます。その際「千」にあたる複数形 milia は中性・複数の名詞で、「千人の男」はmille viriとなるのに、「二千人の男」(=「男たちの二千」)はduo milia virorumとなり、数えられる対象を複数の属格にする必要があります。

● 一覧


■参考文献


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